よしなしごと

日々徒然

ちぇんまい狂詩曲 ③

11/25(水)

船に乗る。
賑々しく、水路の小トリップだ。
皆楽しそうだ。私も無論、楽しい。

今年からコムローイを上げるのに、規制が掛かる…とは、伝聞で。
前回チェンマイ来訪時、そんなコトを耳にした。
むべなるかな、あれだけの光景。
飛行機にも影響が出るだろう。民家への火事もあると聞く。
些か残念ではあるが・・・沢山のクラトーンが水面に流れる様も、又、美しい。
対岸の店のイルミネーション、水面に映る数多のクラトーンの灯り。遠くの空に見えるコムローイ。
「船を動かすのは、難しい」船頭さんと少しお喋り。
梶を取る為、座っている場所を移動するよう促される。

元にいた席に戻る。吃水線が深いように感じるのは、船から容易にクラトーンを流せる為の配慮だろうか。

ロ〜イ ローイカトーン ロ〜イ ローイカトーン・・・
今宵満月、川の女神に祈りを捧げ、天上のブッダへ祈りを捧げ・・・

1時間半は過ぎただろうか、船を降り皆と別れる。
規制があるとはいえ、見上げる夜空にはコムローイの群れ。
惚けたように…目に映る像に惚けるしかない非日常。

フと、暖かさを左下腿に感じる。
気持ち良ささえ感じる暖かさは、刹那のもの。
あっという間に炎は、下腿を覆う布を舐めあげる。
レストラン前に並んだキャンドル。
着衣着火。フラッシュスプレッド現象。
パニック。慌てて両手で火を消す。
Help‼︎ 何度か叫んでみるも、誰一人近づいてこない。
群衆の中にいるのだが、自転車に乗りコチラを一瞥する女性だけが映像記憶として残る。
幸い、膝付近で火は消せた。すごく、焦げ臭い。嫌な臭いだ。

もう、多分、冷静な判断は出来ていなかったと思う。興奮状態の虚脱感から、冷やす事すら面倒に感じる。
そのまま、フラフラと宿を目指す。
世界的にも有名な、チェンマイのイーペン祭。
幻想的な夜空と街の熱気。人々の歓声と嬌声と爆竹と花火と…
旧市街に近づく程に、歩みは遅々とし進めない。人々は、コムローイを手に、手に、最高にハイってヤツだ。

思考が麻痺してるのか、痛みは感じず、他人事のよう。ただ目の前の人々や空を見つめるだけだ。
疲労感に支配されつつも、脳が認識するこの光景を美しいと思う。

大通りの人混みをようやく抜け、小道に入る。
カフェからゆったり、コムローイに埋め尽くされる空を見上げるファランのおじいさん。
仲睦まじげに並んで歩くタイ人のカップル。
暗く、静かだ。なんとはなしに、後ろを振り返る。

月とコムローイの飛ぶ、チェンマイの夜。