よしなしごと

日々徒然

貴てなるひと

篁公縁の、夫婦狐神社を後にして。
少々道に迷いつ、駐車する。

竹叢を 渡る風は ざわめいて・・・なんとも云えぬ気持ちになる。
所謂「もののあはれ」って、ヤツだ。


桜がり 雨はふりきぬ おなじくは
ぬるともはなのかげにかくれむ

「鳥滸(をこ)」かも知れぬが、嫌いぢゃない。
呉竹の挿頭を挿し、優美に舞う。
殿上人に この鄙びた辺境の地は「辛かろう」などと、些か感傷的になってしまう。
妖しとなるまでに都に焦がれたか、入内雀。

・・・まぁ、行成との説話は、あくまで説話みたい。
藤原実方の陸奥守下向は、長徳元年(995年)。

一条帝の御代。およそイメージする平安時代がこの頃と思う。
何せ、望月の藤原道長安倍晴明源頼光紫式部和泉式部清少納言赤染衛門・・・実に華やか。

藤原実方
光源氏のモデルの一人としても挙げられる名だ。
円融院、花山院の寵を受けた貴公子。
二十人は下らない恋愛相手の一人に、清少納言

かくとだに えやはいぶきの さしも草
さしも知らじな 燃ゆる思いを

ああ、いいな。


貴てき君の、終の住処が この土饅頭。
知らず、溜め息。
貴種流離譚に、昔からヒトは弱いと思う。その逆も、また然り。

細く丈高い竹藪と杉の木々に囲まれた空間は、蒼天を目指し垂直方向。視覚の効果か、閉塞感はあまり感じない。
苔色に沈んだ、人の気配のない閑かな奥津城。
竹叢を渡る風は、松風とはまた違う趣きだ。
藤中将の墓標から、沿道を望む。

懐に風を抱く。
此処は此処で、彼のひとに似合う場所かも知れない。